被災者のこころ、支える刺し子
     一針、一針「無心になれる」

         田中陽子



被災地で復興支援になっていると聞いて岩手県の大槌町を訪ねました。

そこで、女性たちが集会場所や仮設住宅で刺し子に挑んでいるのを目にし

ました。ボランティア団体の企画に応じて、わずかでも生活の蓄えになれ

ばと海鳥をモチーフに一針ずつ布に糸を刺し通していました。

 

「これをしていると無心になれるんです。この刺し子がなかったら今の自

分はなかったと思います」と一人の女性が心境を話してくれました。そし

て「今生きていることに感謝する気持ちになりました…」と。




 

自然の恵みも、そして災いも受け入れて粘り強く生き抜いてきた東北の

人々が生み出した技には、日本人が培ってきた知恵や精神が宿っています。

与えられるだけではなく自ら生み出す行為は被災者自身の心の支えとな

り、生きる力を取り戻しているのを実感しました。

手仕事の文化が被災地の人たちの手元を照らしていることに、自ら何かを

作り出すという人間の本能の尊さを思いました。


 

    

 


できあがったものは決して立派なものではありませんが、命がけで刺し子

をしたかつての女性も、被災地で深い悲しみと苦悩の中にいる女性も、時

を超えて、共通して心に流れるものが刺し子にはあると感じました。

そして、多くの女性の心をとらえてやまない刺し子の訳は、そこにあるよ

うな気がしてならないのです。
 


今、被災地は、与える支援から、自らが生み出すことへの支援が必要とさ

れているのではないでしょうか。

人の心の中の苦しみはその人になりかわらなければわからないもの。

だからこそ、被災地の人たちに寄り添うことを忘れてはいけないと思うの

です。



  


 

                                                               田中陽子


 

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